月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
 ぞくぞくする。全身で、彼の侵入を悦んでいる。脳天まで痺れる様な快感が押し寄せて、自分の中がうごめくのが感じられる。何か抑え込むような暗月の吐息が耳もとで聞こえて、またキュンとした。

「お前は……!」

 眉を寄せて目を瞑り、耐える表情の彼が愛おしい。ここぞとばかりに眺めていたら、急に目を見開いて腰を入れられ、奥まで一気に入ってきた。

「あ、暗月!」
「手加減は出来ない」

 そう言う目が据わっている。そしてその言葉通り、暗月は手加減無しで責め立てる。
 さっきまで散々指でこちらの反応を探り、探し当てた好い場所を、遠慮無く突いてくる。私は快楽の海に流されないように彼の腰に脚を巻き付け、ぎゅっとしがみ付いていた。彼の名を何度も何度も呼んで、次第に高みに昇って、そして一緒に果てた。

「朔」

 力が抜けて余韻に浸っていると、暗月が私の頬をそっと撫でる。

「ん……」

 その心地の良さについ眠りそうになるけれど、暗月の手が次第に降り、腰を撫でたところで、あれ? と思う。さわさわと、優しく軽く、でも官能を掻き立てるこの触り方。ゆっくりと彼は私をうつ伏せにして、腰を持ち上げた。

「もう少し、付き合っておくれ」

 つ、と背骨をなぞり、尾てい骨までたどり着くと、両手で尻たぶを開くように揉み込む。まだ敏感なままの体はそれだけでもう反応してしまい、さっき出された暗月のものか、自分のものか分からない体液がこぼれ出て、びくりとした。

「朔……」

 艶っぽい声が耳もとで囁いて、くぷりと暗月が入って来た。その後も快楽はまた押し寄せて、私と暗月は愛し合う行為に没頭した。


 ◇◇◇◇



 それから、三ヶ月が過ぎた。

 私は計画通り寿退社にこぎつけ、みんなとのお別れをし、マンションを引き払った。本当に残しておきたい物だけを厳選し、スーツケースに詰め込んである。不動産屋さんが立ち会ったので、その場で鍵を渡して、これでこの場所はお終いだ。ちょっとした感傷を抱えながら近所を散歩して、日が暮れるのを待つ。

 今は二月の後半で、一番寒い時期。
 コンビニに入ってホットコーヒーと、いつもの如く缶ビールを二本買った。今日のツマミは干しホタルイカ。ライターで炙りながら食べるとより美味しいと聞いたけど、それは試したことがない。このためだけにライターを買うのも、流石にどうかと思うしね。

 公園についてベンチに座ると、ゆっくりとコーヒーを飲む。夜の公園で女一人ってシチュエーション、よくよく考えてみるといつ襲われてもおかしくない、危険な行為だ。今までなにも考えず行動していたけれど、これって多分、守られていたんだろうなぁ。
 なんだか胸の奥が暖かくなって、ふふっと笑った。
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