月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
三年間、SNSのやり取りを時折するだけで、私は直接彼女には会っていなかった。この間を知らない私はこんな時どんな言葉を彼女にかけていいのかが分からない。

「……元気?」

 辛うじて、そんな言葉を口にする。そして発した瞬間、会って最初にそう言ったのを思い出して目を伏せた。

「元気だよ。大丈夫」

 柔らかく言い返されて、なんだか胸が締め付けられた。この子はいつもそうなんだ。辛い時にも辛いって言わない。今だって、久しぶりに会う友達との再会の喜びを優先させる。そんな彼女に、私はなんて言えばいいんだろう。
 今更、中途半端な同情や慰めの言葉をおくりたくない。

 それならばいっそ、

「お家に帰るまでが花見だからね、あんたはイイ男見つけるまでは花見してなー!」
「りょーかーい!」

 ケラケラ笑って去ってゆく。その後ろ姿をぼんやり見ていたら、肩をぽんぽんと叩かれた。

「元気そうで、良かったね」
「……うん。そうだね」

 そして五人で彼女を見送る。

 彼女が幹事だから、私達は今日集まろうと思った。彼女の顔が見たくて、私達は集まったんだ。

「幸せになって欲しいな」

 ぽつりと呟いたら、気持ちを切り替えるみたいに、誰かが言った。

「大丈夫だって。あの子はきっと、帰りがけにイイ男引っ掛けちゃうって」

 そしてみんなで笑い合って、今度こそ解散した。

 次に私たちが会うのはいつなんだろう。その時には彼女の横に素敵な人が立っていればいい。彼女が隠そうとする悲しみも苛立ちも、全部分かって丸ごと受け止めてくれる人。

「ってか、私も欲しいわ」

 思わず呟き、立ち止まった。人の心配する前に、自分も探さなくちゃじゃないのか?

 ははー。とため息ついて、歩き出す。

 さて、私の未来はどこにある?
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