月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─

2.会社同僚の魔術師に引っ掛かっちゃいました

 あれから半年。暗月との公園飲み会は続いている。

「今夜のツマミは、なんだ?」
「カルパス。ロシア発祥のセミドライソーセージ。ちなみにサラミはイタリア発祥のドライソーセージなので、硬さが違います」
「この形状もスティックタイプだな」
「あれ? 嫌い?」
「いや、先月はさけるチーズで、あれもスティックタイプだったなと」
「まあ、外飲みだしね。手軽につまめるって考えると、スティック状は必須だよね」
「そういうものか?」

 首をひねりつつも、暗月は素直にビールとつまみを私から受け取る。
 缶ビールや缶酎ハイを一本からせいぜい二本。夜の公園のベンチでちょい飲みやって、くだらないこと言って、月琴弾いて、それ聴いて。
 気の抜けた時間を過ごして、暗月は夜空へ帰ってゆく。私も日常に戻っていって、そんなことを繰り返して、少しずつ心の底から笑えることが増えてきた。
 ゆっくりゆっくりと、日々は変化してゆく。


 ◇◇◇◇


「立花さん、今帰り?」

 九月の水曜日、残業禁止の早帰りデー。
 十八時前に退社すると、会社を出たところで呼び止められた。振り返ると見知った顔が。隣の課の主任だった。

「飯島さん。お疲れ様です」

 業務の擦り合わせミーティングなんかで、よく一緒になる人だ。温厚な人柄で、各方面の人たちから慕われている。

「こっちの道ってことは、あの電車使う人?」
「そうですね。あの電車とその電車の、あの電車のほうです」
「じゃあ僕と一緒だ」

 その一言で、なぜか一緒に駅まで帰る雰囲気になってしまった。すごいな。
 そして道沿いの前方にある、小さなワインバーの話となった。十九時までハッピアワーなんですって。あ、僕あの店一度行ってみたかったんですよ。って流れからなぜか今、その店の中にいる。もちろん飯島さんと一緒に。流れの魔術師、飯島。恐るべし。

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