月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
 これがただの友達だったら、会社の人といきなりプライベートで友達かよ? って身構えてしまうのに。飲み友達なら、飲み友達なら、こうして会社帰りに気軽に付き合えてしまう……!
 この私の性格を把握して突いてくる飯島さんは、なかなかに策士だ。そして困ったことに、会社から駅までの通り道にはいくつもの魅力的な飲み屋があった。

 そして気付けば毎週水曜日の早帰りデー、ハッピーアワーを狙って攻略をするカップルがここに。
 いつの間に。あれ……?


 ◇◇◇◇


「立花さん、今日はどこに行く?」
「それなんですが、すみません。今日はちょっと用事が……」

 首をすくめ、ぺこりと頭を下げて、飯島さんに謝った。
 用事。用事なんて本当は無い。ただ会社からの帰り道、月に一度公園まで寄り道をする。そこで月の精なるファンタジーでふわっとした、ちょっと人には言えない存在とちょい飲みやって、解散して。それが今月はたまたま水曜日だった。ってだけだ。

 そう言えば飯島さんと暗月、どっちも私からしてみれば飲み友達だよなぁ。本当にお酒って、人を繋ぐね!

 とか、ちょっといい感じにまとめてみたけど、やっぱりなんか落ち着かなかった。
 なんだろう。なんでこんな罪悪感というのか、浮気しちゃったみたいな気持ちになんなきゃいけないんだろう。
 そもそも飯島さんと暗月、どっちに対して私はこんな後ろめたい気持ちを持っているんだ? ああ、モヤモヤする。

「立花さん?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと用事のこと考えていて」
「うん。分かった。……来週は行ける?」
「もちろん! この間行ったお店のすぐ近くに、気になる店が出来たんですよ。スペイン・バルのお店らしくて」
「じゃあ来週はそこに」
「はい!」

 元気よく返事して、駅まで一緒に帰って、そこで飯島さんとは別れた。
 電車に乗って最寄り駅について、コンビニに寄って適当にビールとツマミを買って公園に行って。早帰りデーだったせいか、外はまだ明るい。暗月の姿は無く、私はベンチに座って缶ビールのプルタブを開けた。
 公園で一人酒飲む女。なんかやさぐれているなぁ。

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