ヒキニートヒーロー ~34歳でチートスキル覚醒~
第二章 怪人ミス・マッスル
20年ぶりの再会
俺はただ走った。裸足で。
達也の声がする方へ。
大雨の中、マッチョな銀髪の男が猛スピードで走ってから、かなり目立つ。
だが、それよりも俺は彼のことで頭がいっぱいだった。
というか、頭の中に鳴り響く悲鳴が、うるさくて仕方ないんだ。
(うわあああ! や、やめてくれぇ! た、頼むからぁ!)
達也の叫び声がどんどん大きなくなる。
きっと、彼に近づいているのだろう。
それにしても、一体なにをされているんだ?
酷い拷問にあっているみたいだ……。
『少年。どうやら達也くんが近くにいるようだな。‟縁センサー”が私にも強く感じるぞ』
「なんだその、ダサいネーミング」
『私が今つけた名前だ』
こいつ、本当にヒーローだったのか?
※
たどり着いたその場所は、俺の通っていた中学校。
真島中学校だ。
中学1年生の時に、俺は運動会の練習中にウンコを漏らしてしまい、学年中の生徒たちにからかわれて、いじめられて、不登校になった。
悪い思い出しかない、いわくつきの建物に近づくなんてな……。
だが、今の俺は‟変身”したスーパーヒーロー、ミスターサンダーの2代目だ。
あれ? ミスターサンダーって名前引き継ぐの嫌だな。
ダサいもん。
『おい、少年。君の思考は私にも伝わっているのだぞ!』
ヤベッ、激オコじゃん。
ビリビリおじちゃん。
俺はとりあえず、正門をひょいっと乗り越えて、校舎に入っていく。
悲鳴はどうやら体育館の方からだ。
スーパーパワーを手に入れたと言っても、俺はそんな御大層な志なんて持ってない。
正直、怖い。
相手が人間なのか、はたまたテレビで見たような怪人か……。
体育館の扉を開こうとしたが、手が震えてなかなか動かない。
『少年。大丈夫だ、私がついている。それに君が思っている以上に手に入れた力は、とても強いものだ』
情けねぇ。こんなオワコンヒーローに気を使われるとは……。
「わーってるよ!」
俺は勢いよく扉をガンッ! と左右に開いた。
するとそこには驚愕の光景が……。
「なっ!」
目も覆いたくなるような悲惨な光景。
体育館の中には、何十人もの若いピチピチで中性的な美男子が、真っ裸にされて、縛られていた。
バスケットゴールに吊るされたり、 跳び箱に縛られたり……。
男の俺からすると、とてもエグい現場だった。
「あらぁ! あなたもなかなかのイケメンねぇ♪」
そう言って、体育館の中央に立っていたのは一人の大男。
俺に負けず劣らずのガチムチマッチョで、身長は2メートル近い。
だが、そんなことよりも気になるのは、彼の服装だ。
ピチピチのセーラー服を着ていて、しかもミニ丈。
おまけにニーハイを履いているという絶対領域を展開していた……。
キモッ!
こいつは怪人ではなく、ただの変態事案では?
『少年よ。これは間違いなく、怪人の一人だ……気をつけたまえ』
「うそぉ……」
「あっ! ちょうどいいところにきた! 助けてくれぇ!」
そう叫ぶ男は、俺が唯一、親しい友と言える存在、松田 達也その人であった。
残念ながら、彼も裸で身体測定機にしばられており、下のタツヤくんがこんにちはしている。
もちろん、へなちょこ姿で……。
まさか、20年ぶりに再会した友のおてんてんを拝むことになるとは。
しかし達也って、割とイケメンなのに、下は低身長なブサメンなのな。
「うふふふ、たっぷりと可愛がってあげるわぁ。た・つ・や・さん♪」
「嫌だぁぁぁ! やめてくれぇ!」
帰ろうかなぁ。
なんか来ちゃいけないところに、来ちゃったていうか、俺ってば、お邪魔じゃない。
『少年、ダメだ! ちゃんと戦闘を経験し、捕まった人たちや友人である達也くんを無事に助けるのだ! それが君の初めての救いだ!』
「……はぁ」
とりあえず、俺は拳を作って、叫んだ。
「おい、その人たちを離せぇ!」
こんなんでいいのか、ヒーロー業って……。