最後に恋した一か月
✿後輩ワンコくん
もうすぐ、春ですね。
桜の蕾がだんだん、膨らんできている様子を、あたしは放課後の教室から見ていた。
そんなとき、ドタドタと足音。
「あっ、いたいた! 世子せんぱーいっ」
その声の持ち主は。
「浅田くん!?」
浅田陽治と書いて、アサダ、ヨウジ。
一年下の後輩くん。
なんで、あたしがこの子と仲がいいかというと。
「もー、先輩が部活辞めてから、オレ、すっーごい寂しいんですからね!?」
そう。
同じ部活、だったの。
うちの学校の弱小テニス部の。
だったっていう過去形。
三年生は、夏に引退する決まりだから。
それはこのあたし、妃海(ひうみ)世子(よこ)にだって通用するルール。
「ばーか。引退してから半年も経ってんだけど!」
「いくら経ってても、オレは、いーやっ」
ほんと、おばか。
浅田ってさ、寂しがり屋っていうか、子犬みたい。
うるうるのおっきな瞳してるし。
あたしを見かけたら、すぐに走ってくる。
まるで尻尾をぶんぶん振って、寄ってくるワンコ。
かーわいー、けど。
男子なんだよね……?
「はいはい、で、何?」
「まだ靴箱に先輩の靴あったからさぁ、帰ってないと思って探してた」
「お前はストーカーかっ!!」
「ひええ、純粋な先輩を慕う気持ちですぅ」
「まー、よし。では、きみの憧れの妃海世子が許してやろう」
「ははーっ、ありがたき、幸せ」
「で、何なのよ。よーけんは?」
「あ、えっと……」
ん?
「早く言いなさいよ、もう」
「あのさ、先輩」
「なに?」
「もーすぐ、卒業、だよね?」
そーですけど。
何か?
「卒業したらいなくなっちゃうんだよね?」
そりゃそうでしょーが。
「オレさ、やっぱ寂しいです」
こんにゃろー。
「だから」
「え?」
ワンコはあたしの目をじっと見つめて、お願いしてきた。
「先輩の残りの一ヶ月、オレにくださいっ!!」
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