元勇者は彼女を寵愛する
「僕は君が望む方を選ぶよ。君が行けと言うならそうするし、行って欲しくないのならどこにも行かない。このまま君と一緒に街を歩いて回ろう。」

 え?助けを求めている人が目の前にいるのに、放っておくの?

「でも、ヴァイスは助けに行きたいんじゃないの?だってヴァイスは勇者だから――」

「僕が知りたいのは君の本当の気持ちだよ。君が望むのは勇者としての僕かい?それとも、恋人としての僕?」

 その表情に、いつもの笑顔は見られない。
 真剣な眼差しで私に明確な答えを求めている。

「なっ!?勇者様、私達を見捨てるのですか!?それなら私も黙ってはいられません!ここで断ると言うのなら、貴方の存在を世に――」
「ちょっと君、黙っててくれないかな?」

 ヴァイスは突き刺す様な冷たい声で神父に言い放った。神父は口を開けたまま言葉を失っている。

「さあ、リーチェ。君の本当の気持ちを教えて?」

 私の……本当の気持ち?
 私がここで行かないでって言えば、ヴァイスは私を選んでくれるっていうの?

 だけど、本当にそれでいいの?
 あなたは困ってる人を放ってはおけないはずでしょ?
 今までだってそうだったもの。あなたはとても優しい人。顔だけでなく、心もとても綺麗な人だから。
 私はそんなあなたに惹かれたのだから。

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