元勇者は彼女を寵愛する
 でも、私はあなたとは違う。
 私はそんなに優しい人間じゃない。
 だって本当は私が一番喜んでいるの。
 この国から追放されて、二人だけの世界で暮らせている事を。

 だってみんなの勇者様じゃなくて、私だけのヴァイスになったのだから。
 ヴァイスがそばにいてくれるなら、本当は他のことなんてどうだっていい。

 だけど、そんな私はあなたに相応しくない。
 お願いだから、必死に隠してきたこの醜くて黒い本音だけは探らないで――

「ヴァイス、私の事は気にしないで。困っている人達を助けてあげて」

 私は精一杯の笑顔を貼り付けて、明るく言い放った。

「そう……やっぱり君はそう言うんだね」

 一瞬その瞳が曇ったかの様にも見えたけど、ヴァイスはすぐに顔を伏せ、私に背中を向けた。

「分かった。行ってくるよ。リーチェはここで待っているんだよ」

 そう言うと、ヴァイスは神父と共に外へと出て行った。

「うん……いってらっしゃい」

 遠くなるその背中に向かって投げかけた私の声は、消えそうな程小さかった。



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