元勇者は彼女を寵愛する
 「はぁぁ……」
 
 あの後、私は教会の中にある別室へと案内された。
 用意されたティーカップのお茶を一気に飲み干し、深いため息をついた。

 これで良かったのよね?
 勇者の彼女なら、この答えが正解のはずよね?

 一人残された私は、孤独に支配されそうな心を慰める様、必死に自分に言い聞かせた。

 その時、コンコンとノック音が聞こえてきた。
 扉を開けるとそこには一人の少年が立っていた。
 見覚えのある顔に、私は息を飲んだ。

「あなた!さっきの盗みの少年じゃない!!」
「あ、やっぱりバレてた?お姉さん目がいいんだねぇ!」

 少年はそう言うと、何の断りもなくズカズカと部屋の中へ入ってきた。
 悪気なんてかけらも感じていないその笑顔が無性に腹が立つ。

「よくこの神聖な場所に入ってこれたわね。どうせここにも忍び込んで来たんでしょ?神様に懺悔でもする気だったのかしら?」
「あっははっ!勘違いしないでよ。僕はここに住んでるんだ。孤児のところをここの神父さんに拾われたんだ。あ、ちゃんとお茶も飲んでくれたみたいだね」

 ここに住んでるですって?一体どういう……

 突然、視界がグラりと揺れて、立っていられなくなった私は膝をついた。
 
 何?これ?
 まさかさっきのお茶に何か…?

「あと、こう見えて僕、本当はもう成人済みなんだ。体の成長を止める薬を飲んでるからね。子供の姿だと何かと便利なんだよ。大人は油断するし、女の人はすぐに同情してくれるからね。これも神父さんが教えてくれた、この世界で生き残る方法だよ」

 そう話す少年は悪魔の様な笑みを私に向けている。
 激しい眠気に襲われた私は目を開けていられず、床へと倒れた。
 
 ヴァイス、あなたの言う通り。見た目に騙されちゃ駄目ね。
 一番怖いのは人間だわ――

 そのまま私の意識は深い闇へと沈んでいった。
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