元勇者は彼女を寵愛する
「そうよ!本当はみんなの勇者様じゃなくて、私だけの恋人でいてほしいのよ!常に私の事だけ考えていてほしいし私だけを見ていてほしい。ぶっちゃけ世界の平和とか全部そんなのどうだっていい。私とヴァイスが誰にも邪魔されずに二人だけの世界で生きられたら、他の事なんてどうでもいいのよ!!そんな事を常に考えてる女なの!!勇者に相応しい女性であろうと取り繕ってただけで、本当は自分の事しか考えていない、こんな腹黒い女なのよ!!」

 こんな事を言ってしまって、幻滅されても仕方がない。
 さすがに自分の事しか考えていない様な女を傍にいさせたいとも思わないでしょ?

「ごめんねヴァイス。こんな卑しい私なんかと一緒に暮らしていくなんて、きっと嫌に決まってるわよね。安心して。私はあの家を出ていくから――」

「なんだって?」

 優しかったヴァイスの口調が一変した。驚くほど低く、冷たい声に。
 それも当然よね。

「やっぱり怒ってるわよね。こんな自分勝手な女だったなんて」
「そうじゃない。僕は嬉しかったよ。君の本音が聞けて。君が僕だけを望んでいる。それだけで僕は舞い上がる程に嬉しかったのに……僕の傍から居なくなるだって?それだけは許さないよ」
「……ヴァイス?」
「残念だよ。そんなことで僕が君を手放すとでも思ったのかい?どうやら君への愛が十分に伝わっていなかったみたいだね。これからはもう少し、分かりやすく伝えていく様にするよ」

 ヴァイスが私を見据えるその瞳は、まるで目の前の獲物を狙うかの様に鋭くなる。
 本能的に危険を予感する。だけど私の体はヴァイスに捕らわれたまま。それに私自身も、これから起きる事に少しだけ期待をしてしまっている。

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