元勇者は彼女を寵愛する
 十二歳の時。
 闇の力をある程度コントロール出来るようになった僕は、盗みも上手くなり、食べ物に困る事はなくなった。
 黒髪の事で絡んでくる輩も、簡単にねじ伏せ追い払う事が出来るようになった。
 あの小さい魔族は変わらず僕の側にいて、ことある事に魔王になるよう囁いてきた。
 
 だけど僕は勇者に憧れていた。
 僕の母は、小さい頃に魔族に襲われた所を勇者に助けられた事があるらしく、僕に勇者の武勇伝をたくさん話してくれた。

 誰でも等しく助けてくれる勇者。
 この孤独という深い闇に捕らわれた僕を、いつか勇者が現れて救ってくれるかもしれない。
 それが僕の持っていた唯一の希望だった。
 だけど、いつまでたっても勇者は僕を助けてくれなかった。
 魔王が復活したのにも関わらず、新しい勇者はまだ現れていなかった。

 気付くと、僕は歴代の勇者の石像がズラッと並んでいる広場に立っていた。
 そこにあるのはただの石の塊。それなのに、陽の光を浴びた勇者の石像は神々しい輝きを放っている様に見えた。

「勇者サマ……イ・ケ・メ・ン♡はぁぁぁ……最高ね」

 初代勇者の石像の前で、一人の女の子が頬を赤らめながら手を合わせていた。
 よく分からない言葉を呟き溜息を洩らすと、今度は二代目勇者の石像の前に移動した。
 再び手を合わせ、これ以上にないほど食い入るように勇者の石像を見つめている。

「ああ!こっちも本当にイケメンね!この目のバランスと鼻の位置…なんて黄金比率なの!!?こんなイケメンをこの世に送り出した神様に感謝しなくっちゃ!神様ありがとうございます!!」

 ……イケメンってなんだ?

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