元勇者は彼女を寵愛する
そして十八歳になった僕は、聖剣がある場所へと辿り着いた。
闇の力を持つ僕は、相反する聖剣の力によって強く拒まれ、聖剣を抜く事なんて出来なかった。
だけど力を使い、聖剣が刺さっていた台座を破壊する事は出来た。
聖剣の力は僕の闇の力と反発し合っていて、なかなか厄介な代物だった。
手袋を装着し、闇の力で聖剣の力を押し込める事で、何とかそれを手にする事が出来た。
次に邪魔になったのはこの黒髪。
闇の力を自在に使える様になった僕は、その力で自らの髪色を染めた。
色の調整がなかなか難しく、銀色と金色を混在させることで、染め直した時の違和感を解消させる事にした。
僕に付き纏っていた魔族はそれ以来、僕の前に姿を現さなくなった。
聖剣を手に入れた僕の噂は、瞬く間に世界中に広まった。
「新たな勇者の誕生!!」「人類の希望現る!!」そんな新聞の見出しが世間を賑わせた。
僕の姿を前に、人々は神でも崇めるかの様な視線を送ってきた。
目を輝かせながら、時には涙を流しながら歓喜に沸いている彼らに、僕は慈しみの笑みを浮かべて応えた。
なんて滑稽な景色だろうかと、心の中で嘲笑いながら。
目の前にいる勇者は、君達がずっと蔑んできた黒髪の少年だというのに。
だけど、その気持ちはよく分かるよ。
自分より劣る人を見るのは楽しいね。
僕は今、君達のその間抜け面を見るだけでとても楽しいよ。
君達が勇者と信じて疑わない相手が、いったい何者なのか、知りもしないで喜んでいるのだから。
でも安心していいよ。
ちゃんと魔族も魔王も倒してあげるから。
だって、僕は勇者だからね。