元勇者は彼女を寵愛する
 リーチェ、僕も同じだよ。
 君が僕のそばにいてくれるのなら、他の事なんてどうでもいいんだ。

 腕の中で眠る彼女に、転移魔法をかける。転移先は僕達が住む家のベッドの上。
 ここを片付けて家に帰ったら、服を着替えさせてあげないと。あとは湯浴みも念入りに。汚い男が触れた服はもちろん処分しないと。忙しくなりそうだから、さっさと片付けてしまおう。

 僕が力を解放させると、会場内にいる人間の足元から出現した闇が彼らを包み込む。

「うわああああああ!!!」
「きゃあああああああ!!?」

 必死に逃れようとする者も、恐怖で動けず固まっている者も全て、闇は容赦無く飲み込んでいく。

「安心するといい。それは君達を殺しはしない。何処までも続く闇の中で恐怖と苦しみを味わう事にはなるけど、いずれは解放されるはずだよ。その時に正常な精神で保てているかは分からないけどね」

 以前にも、リーチェは勇者の女だという理由で目を付けられ、僕の力を悪用しようとする連中に誘拐された事があった。
 あの時もすぐに駆け付けた僕が、彼女に危害を加えようとした連中に怒り任せに闇の力を発動させた。
 同じ事が二度と起きないよう、一部の人間をわざと生かして、彼女に二度と関わらない様にと徹底的に叩き込んだのだけど、またこんな事が起きるなんてね。
 ほんと、役に立たない奴らだな。

 その時の出来事も、リーチェの記憶から消しているから彼女は覚えていない。
 勇者と一緒にいるから狙われた。それが怖くて僕から彼女が離れていくんじゃないかと、気が気じゃなかった。

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