貴方の為にある魔女の甘い吐息
「はぁはぁ」
 彼の顎から滴る汗が、私のボウタイに零れ落ちる。
 うっぷんを晴らすように打ち付けられる杭に体は熱くなり、心は褪めていく。


 陽が陰りはじめ、夕食用のスープの鍋に火を入れたところで勝手口からノックが聞こえた。
 彼は、出迎えた私を見るなりいつもより性急にスカートをまくり上げる。
 片足を持ち上げられ、勝手口の横に積まれた木箱に軽く腰掛けるようにしながら手をつき、私は何とか体勢を維持した。間違っても彼の首に腕を回したりなどしない。
 だけど、彼の剣だこで固い指先が膝から腿を撫でると、もうそれだけで体の中心が熱くなってしまう。

「何にもしてねぇのに、もう濡れてんじゃん。淫乱魔女」

 よっぽど切羽詰まった状態だったのか、この行為がただの作業に過ぎないのか、最近はもうベッドに行くこともないし、ブラウスのタイをほどかれることすらない。

 ”体を落とせば、そのあと心もついてくる”
 言ったのは誰だっただろう。
 もう、そんなことわざなんて信じる気はさらさらないけれど。

 なぜ心を通わせることが無い相手を好きになってしまったんだろう。
 彼は私の体がないと生きていけないけれど、心が向くことは無いのだから。

 ”愛するお姫様、彼女を守るための最強の盾となること”

 それが彼の選んだ生きる道だ。

 そして、最強の盾でいるために必要な力を持つ魔女の私。
 私がオーガズムによって吐き出す甘い吐息が、彼が最強でいるための最高の力となるのだ。

 なぜ、そう生まれてしまったのか。
 なぜ、その相手が彼であったのか。
 これはもう神様が決めたとしか言いようがない運命。

 もし、もっと違う生き方があれば、私と彼は違う未来を描けただろうか。
 いや、そうであれば二人は出逢う事すらなかったのだ。


「考え事してる余裕あんのか」

 お尻を掴む手がいっそう強くなり、私の奥の奥を突き上げる。
 感情とあべこべに、湧き上がる衝動が憎い。

「っん……こんなふうに……いきたくなんてないのに」

 涙がこぼれ落ちないように唇をかみしめる。
 一瞬だけ交わったまなざしが苦しそうでそれ以上何も言えなくなった。

「悪い」

 私が絶頂に向かうその直前に、肩口に顔をうずめて発する上手く聞き取れないほどの小さなつぶやき。
 その一言だけでこの恋慕を継続するには十分だった。

「……ん、あぁ」

 絶頂を迎えた私から奪うようにキスをする。
 奪われているはずなのに与えられるような甘い吐息。
 そう、彼はただこれが欲しかっただけなのだ。

 脱力した私を尻目に用は済んだとばかりに彼は身支度を整え出ていく。



 私はその扉をただ見つめた。
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