When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
プロローグ
 強烈な平手打ちが金澤(かなざわ)恵那(えな)の左頬を打ち付けた。

「この泥棒猫!」

 次いで右頬を(はた)かれる。恵那は意味がわからないまま、ただ混乱していた。

 女性は怒りを露わにし、溢れ出る涙で頬を濡らしている。

「人の旦那と何やってんのよ!」

 更に三発、四発とお見舞いされてから、髪を引っ張られる。

「あんたのこと訴えてやる!」

 恵那が苦しそうに顔を歪めたにも関わらず、男は彼女には見向きもせず、おろおろしながら女性の機嫌を取るような笑顔を向けた。

「ち、違うんだよ! 彼女は……た、ただの、そう一回きりの相手なんだよ! ほら、お金がなくて困っていたから……ねっ? わかるだろ?」

 先ほどまで二人でホテルにいたはずなのに、まるで金欲しさの、たった一度きりの関係だと言ったこの男。

「嘘つくんじゃないわよ! あんたの行動なんて、とっくに調べ尽くしてるわ! 全部言ってほしい? 日にち、時間、ホテルの名前まで細かく教えてあげるわよ!」

 彼とホテルに来るのは今日が一回目。それなのに全部知っているとはどういうことだろうか。
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