When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜

　泰生は恵那の両手を頭の上に移動させ、左手だけで押さえつける。それから右手で髪を撫でると、ゆっくりと顎まで移動させ、指先が恵那の唇の上を彷徨う。

「……どうして不倫なんてしたんだ？」

　どこか悲しげを帯びた瞳に胸が苦しくなる。

「し、したくてしたわけじゃないわよ！　勘違いしないで。たまたまジムで声をかけてきた人が既婚者だっただけよ。それを知っていたら不倫なんかしなかった！」
「……本当に？」
「なっ……！　私がそういうことを平気でするような女だって思ってるの⁈」
「……お前と会わなくなってから五年経つんだ。その間に何があってもおかしくないだろ」

　何こいつ……信じられないーー元々冷徹な男だと思っていたが、ここまで最低な奴だとは思わなかった。

「もういい。離して」

　恵那が吐き捨てるように言うと、泰生は手を離して離れる。

　押さえられていた手首が痛んだが、そんなことはどうでも良かった。カバンを掴み、ベッドから降りる。

「玄関はどこ？」
「……無理だ。帰れる訳がない」

　彼の言葉を無視して部屋から出ると、とりあえず廊下を歩き始める。階段を降り、広いリビングを通り抜け、ようやく玄関に辿り着いた。

　無造作に脱ぎ捨てられたハイヒールを履き、玄関のドアを開けた恵那は、目の前に広がる景色を見て絶句した。