When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
* * * *

 あれは大学四年の時だった。サークルの飲み会で、断りきれずについ飲み過ぎてしまったのだ。

 昔から嫌と言えない性格で、そのことを親にも、そして泰生にも注意されたことがある。

 でも自分が断ったことで、その人を傷付けたらどうしようとか、場の雰囲気が悪くなったら耐えられないとか、そんなことをつい考えて流されてしまうことが多々あった。

 でもいつの間にか注意してくれる人はいなくなり、泰生からは言葉すらかけてもらえなくなったーーまるで見放されたような気がして苦しかった。

 だからあの日、飲みすぎて気を失ってから何があったのかは覚えていない。ただぼんやりとした意識の中で、目の前に泰生の苦しそうな顔と逞しい体があって、彼に体を貫かれた瞬間に痛みと喜びを感じたのを覚えてる。

 朝になって目を覚ますと、そこがホテルの一室であることに気付く。そして目の前には既に服に着替えた泰生の後ろ姿があった。恥ずかしくて布団から出られなくなった私に、泰生はたった一言、
「ごめん」
とだけ言い残すと、そのまま部屋からいなくなってしまった。

 たった一人で部屋に取り残された恵那は、その状況が理解できないまま家に帰った。

 ただ考えれば考えるほど、泰生は自分との関係を後悔しているのだと思った。あの夜の出来事をなかったことにしたいに違いない。そう思うたびに悲しみに暮れた。

 大学を卒業してから医療事務として耳鼻科に就職し、一人暮らしを始めた。実家の病院を継ぐために医学部に進学した泰生はまだ学生で、二人の間には実家が近いという以外の接点はなくなっていた。

 そして昨日の夜が、あの日以来の再会となったのだ。

それなのにどうしてまたこんなことをするの? 嫌じゃないし、拒めないーーむしろもっと欲しくなる。蓋をしてきた本当の自分の気持ちが露わになりそうだった。

 泰生は恵那を何度も何度も快楽の世界へ導き、一つになる悦びを与え続けた。まるで飢えた野獣のように恵那の体を味わい続けていく。

 恵那も何度も迎える絶頂に蕩け、これ以上すると壊れてしまうような気さえしていた。

「泰生……もう無理……」

 そう懇願しても、彼は黙ったまま恵那を抱き続ける。恵那が泰生の頬に手を触れると、彼はその手を掴んで口付けた。

 ねぇ、泰生……何か言ってよ……今どんな気持ちでいるのか教えてよ……。こんなふうに私を熱く抱くのはどうして? そんなふうに愛しい者を見つめるような目で見ないでよ……。もう諦められなくなるーーそんなことを心の中で叫びながら、恵那は眠りについた。
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