When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
* * * *

 恵那の寝顔を見ながら、泰生の胸の中を空虚な風が吹き抜けていく。彼女の髪を撫でながら、深く落ち込んだ。

 (うめ)き声を抑えながら恵那の中から出ると、一度呼吸を整える。それから彼女の体を抱き上げ寝室へ行くため階段を昇った。

 起こさないように気をつけながらベッドに寝かせると、そっと掛け布団をかける。

 またやってしまった……どうして俺は恵那のことになると正気を保てないのだろうか。あの日に恵那を傷付けたのに、今日また同じことをしてしまったーー後悔で心が押し潰されそうになる。

 だって出会った頃から、恵那は俺にとって大切な存在。彼女に代わる人間なんていないと思っていた。だからあの日も今日も、どこか裏切られたような気がしたのだろう。

 恵那が不倫だなんて、何かの間違いだと思いたかった。そんなことをしなくたって、彼女なら普通の幸せが手に入るはずだ。

 俺がずっと恵那を好きだったなんて言ったら驚くだろうなーー泰生は苦笑した。それを伝えて困らせるつもりは毛頭ない。ただ彼女にはちゃんとした恋愛をして欲しかった。相手が俺以外でも構わないからーー。

 泰生は立ち上がると、そっと寝室を後にしてリビングへ行く。壁際にあるチェストの引き出しを開け、中にしまっておいた恵那のスマホを取り出した。

 電源を入れてから、昔から恵那がラッキーナンバーだと言っていた数字を打ち込むと簡単にロックが外れる。相変わらずなんだな……単純というか、そこが可愛いところなんだが。

 電波が入った瞬間、大量のメールと着信のお知らせが届く。メッセージを開いて既読にするわけにはいかず、とりあえず画面に出ている文章だけ読んでみるが、あの男が恵那に未練タラタラなのは十分伝わってくる。

 だが目撃した人の話によれば、男は妻の機嫌をとって、倒れた恵那には目もくれなかったと言っていた。

 泰生はそれが許せなかった。恵那を大事に出来ない男は俺が排除する。そして恵那の心の中からも、あの男に抱かれた体の記憶さえも俺が消し去るんだーー泰生はスマホの電源を切ると、再びチェストの引き出しに戻す。

 それから寝室に戻ると、ベッドに近寄り恵那の様子を確認する。大丈夫、よく眠ってる。

 泰生は恵那にそっと口付けると、浴室に入って行った。
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