When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
あの日の真実
「泰生っ……苦しい……」

 恵那が息を切らしながら言うと、泰生ははっと我に返り体を離すと、その場にへたり込む恵那の体を抱きしめた。

「悪い……つい……」
「大丈夫……タオルくれる? あとベッドまで運んで。疲れた」
「わかった……」

 泰生はバスローブを着ると、恵那にも同じように着せる。タオルで恵那の髪を撫で、それからベッドまで行くと彼女をそっと寝かせた。

 そしてすぐに背を向けてその場を離れようとしたため、恵那は泰生のバスローブを引っ張って引き止めた。

「どうしてすぐにいなくなろうとするの?」

 泰生の背中がわずかに震える。

「あの日もそうよ……私の顔も見ないでいなくなった……」

 恵那の言葉を聞いても微動だにせず、ただ立ち尽くしている。

「……合わせる顔がなかったんだ……」
「えっ……」
「恵那が眠っているのに……俺は自分の中の怒りと欲望に任せてお前を抱いたんだ……」

 ようやく話し始めた泰生は、恵那に背を向けたままベッドに座り込んだ。その背中があまりにも悲しみを帯びていたから、恵那はたまらなくなって抱きしめる。

「ねぇ、怒りって何? あの日何があったの?」

 暫くの沈黙の後、泰生は両手で顔を覆い下を向いた。

「あの日……俺は友達との飲み会の帰りで、歩いて駅まで向かってたんだ。そうしたら同じように飲み会を終えた直後の恵那たちのグループに遭遇した。でも恵那は飲み過ぎて意識を失ってて……そうしたらその中の一人が恵那を連れて帰るって言い出したんだ」
「……誰が?」
「わからない。でも軽そうな男だった。もしかしたら恵那の恋人かもしれない……そう思ったけど、俺は自分の中の衝動を抑えられなくて、その男に声をかけたんだ」

 飲み過ぎて意識を失うことはよくあった。でも朝になれば大抵女友達の家にいて、何度も謝罪した。

 だけどあの日は違ったんだ。もし泰生が声をかけてくれなかったら、最悪の事態になっていた可能性もあった。

「『君は恵那の恋人か?』って。そうしたらすぐに怪しまれたよ。恵那の向かいの家の者だって説明したら笑われた。『飲み過ぎた彼女を介抱しようとしただけ。何かあんたに迷惑かけたか』ってさ」

 その話し方を聞き、同じ学部だった男の顔が頭に浮かぶ。女癖が悪くて有名で、気をつけるよう友達にも念を押されていた。

 あの男が私を連れて帰ろうとしようとしていたの?

「そうしたら恵那が一瞬だけ目を覚まして、俺を見るなり一緒に帰るって言い出したんだ。俺に抱きついた恵那を見て、その男がこう言ったんだ」

 嫌な予感しかしなかった。恵那は息を飲み、ただ耳を澄ませた。
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