弁護士は逃げる婚約者を離したくない
えっ、2人きりで何を話せって言うのよ?

今日初めて会ったばかりの相手と何の話をしろと言うのだ。

と言うか、2人きりにするな。

心の中でツッコミを入れていたら、
「ええよ」
と、彼の母親は一言だけ返事をした。

いや、“ええよ”じゃないよ。

もうここから逃げ出したろかと思っていたら、
「恵麻ちゃん、行こか?」
と、宇大は私に声をかけてきた。

「えっ…ああ、はい…」

間近で見た彼の整ったその顔に気圧されるように、私は返事をしてしまった。

私も人のことが言えないな…。

イエスと返事をしてしまった自分に呆れながら、彼と一緒に鶴の間を後にしたのだった。

鶴の間を出た私たちはホテル内の庭園にいた。

手入れが行き届いている庭園を眺めながら、隣にいる彼にチラリと視線を向けた。
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