弁護士は逃げる婚約者を離したくない
「キッチンを借るなぁ」

「どうぞ」

キッチンへと足を向かわせた宇大を見送ると、私は再びベッドのうえで横になった。

トントンと、手なれたように包丁を動かしている音が聞こえた。

しばらくすると、お出汁のいい匂いが漂ってきた。

「できたで」

宇大に言われて、私は躰を起こした。

「簡単なもので申し訳あらへんけど」

宇大はそう言ってテーブルのうえに丼を置いた。

中身を覗いてみると、うどんだった。

座椅子に腰を下ろすと、
「いただきます」

両手をあわせると、うどんを口に入れた。

「薄味やさかい恵麻ちゃんの口にあうかどうかわからへんけど」

苦笑いをしながら言った宇大に、
「…美味しいですよ」
と、私は返事をした。

ねぎとしょうががよく効いているうどんはとても美味しかった。
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