弁護士は逃げる婚約者を離したくない
トイレから戻ってくると、
「喉、渇いてへん?」

宇大が声をかけてきたので、私は首を横に振った。

「何か必要なものがあったら声をかけてや」

そう言った宇大の横を通り過ぎると、私はまたベッドのうえで横になった。

「宇大さん」

「何や?」

「…あなたがここにいたら、また風邪をひくことになるかも知れませんよ」

私がそう言ったら、
「もし俺がまた風邪をひいたら、その時はまた恵麻ちゃんが看病しにきてくれるんやろう?」

宇大はそう返事をしてフフッと笑った。

「…わかりませんよ、また移されると面倒ですし」

「また恵麻ちゃんが風邪をひいたら、俺が看病しにくんで」

何かもうバカバカしくなってきたな。

私が治るまで宇大はここから動くつもりはないんだと、そう思った。
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