寝取られたくて、彼氏を匂わせてみました
 まずは、化粧品とデートに行くような服を通販で購入。
 それらを慣れないながらも装着し、実家から送られてきた地域限定パンを持って海成の部屋のインターホンを鳴らす。

 程なくして、彼はいかにも寝起きと言った風貌でドアを開けた。

「お、千春。どうした?」

「実家からいっぱい送られてきたけど、賞味期限短いし、こんなに食べられないから」

 パンの入ったビニール袋を押し付けると、海成は珍しいものでも見るように上から下へと視線を移した。足元で彼の目線が止まる。

 ──しまった!ワンピースにスニーカーはあり得ない。どうかバレませんように。

 普段は着ないポリエステルの薄い生地の腕のあたりを彼は少し摘まんだ。

「なんか、今日普段と違うな」

「そ、そう? これからと、友達と出かけるから」

「ふーん。珍しいな。じゃあ、これサンキュー」

 いつも通りの気軽なやり取り。ここで『デートなの』と言えればよかったが、まだハードルが高すぎたようだ。今度からセリフも用意しておかねば。

一仕事終えた私は大きく深呼吸をして、そのまま部屋に戻った。そして、すぐに通販で今度は靴を購入した。完璧だ。


 大学の構内で、彼氏ができたこと(仮想)を匂わすのは恥ずかしいので、放課後やバイト終わりの海成と鉢合わせできる時間を狙ってデート帰りを匂わせた。
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