寝取られたくて、彼氏を匂わせてみました
 そして、今夜も海成のバイト終わりの時間に合わせて、交差点で鉢合わせできるように調整をした。これは断じてストーカーではない、はず。

「あれ? 海成、今バイト終わり? お疲れ様」

「なんか、最近よく会うな」

「そ、そうかな? 私も出かける用事がいろいろあって」

「男か?」

 ──キタっ!欲しい質問きた。
 私は、頭の中で何度もシミュレーションした言葉を発する。

「まぁ、そんなところ」

 ついでにちょっと髪も耳に掛けちゃったりなんかして!完璧だ。

「どんな奴?」

 海成が! 今まで私に一ミリも興味なかったはず海成が私の彼氏(仮想)に興味を持った!? すごい仮想彼氏パワーというか性癖パワー!?

「うーん。えっと、やさしい人……かな」

「こんな夜道を一人で歩かせる男が優しい奴なもんか」

 静かな住宅街のせいか、ぼそりとつぶやくよう言った彼の声はとげとげしさを醸していた。

「そ、そうかな?」

 ヤバいな、彼氏いない歴更新中の私は、そこまでの彼氏設定していなかった。
 彼氏は一人で夜道を歩かせない。気を付けよう。

 そんなことを考えている間にもうマンションに着いた。
 私の住む階にエレベーターが止まる。海成の住む階は3階上だ。

「送ってくれてありがとう」

 挨拶をして別れようと思ったが、なぜか一緒に彼もエレベーターを降りていた。

「部屋まで送るよ」

「そうなんだ。ありがとう」

 といってもそんなに大きくないマンションのため数メートル先はもう部屋のドアだ。
 ドアにカギを挿しても海成はまだ帰るそぶりを見せない。こんなことは初めてだ。少々混乱しつつも、部屋に入るまで見守ってくれているのかと納得した。
 ドアを開け、振り返ると海成はにっこりと微笑んだ。

「お茶ごちそうになって帰ろうかな」
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