紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
ーーこうしてみんながかけてくれた魔法は、見た目にだけじゃなく心にまで効いていたらしい。
"和泉さんに、今の気持ちをちゃんと伝えよう"
彩也子さんの登場で足のすくんでいた私に、そう決意させてくれたのだから。
C’est la vieを出て、乗る電車の方向が違う珠理ちゃんに改札前で今日のお礼と共にそのことを伝えれば、「元カノなんて全然へのカッパですっ!灯さんしか勝たん!」と、満面の笑みを浮かべた彼女から熱い抱擁と力いっぱいのエールをいただいてしまった。
そして彼女と別れた私は今、ホームの空いているベンチに座ってスマホを片手にうんうんと唸っている。
時刻はすでに5時を回っていて、茜色に染まり始めた空がホームの隙間からも覗いていた。
まずは会う約束を……。そう思ってトークアプリを開き文章を組み立てようとするけれど、どう誘えばいいものか、なかなか指が進まないのだ。
いや、普通に誘えばいいのはわかっているのだけど、その目的が告白をするためとなると、変に緊張してしまう。
"お疲れ様です。帰国してお仕事落ち着かれましたら、少しお会いする時間を作って頂くことは可能でしょうか"
……堅い、堅過ぎる。
ようやく打ち込んだ文章を見て私は思わず苦笑い。
緊張し過ぎて文面にまでその緊張が滲み出てしまっている。
それを消して、もう一度打ち直す。
"お疲れ様です。帰国して和泉さんのお仕事が落ち着いたら、比呂さんのお店に贅沢なカルパッチョを食べに行きませんか?"
うん、シンプルだし堅苦しくないし、よし、これでいこう。
誤字脱字がないかもう一度チェックをして、えいっ、と勢いをつけて送信ボタンをタップした。
そしてタイミング良くやって来た電車に、私は足元に置いていた今日の戦利品たちと共に乗り込んだのだった。