紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「…………私も、会いたいです………」
明日"好き"を伝えるための、第一歩。
なけなしの勇気を振り絞って何とか音にしたけれど、それはまさに蚊の鳴くような声になってしまい、これは外の喧騒と相まって和泉さんの耳にはちゃんと届かなかったかもしれない。
でも、そんな心配は杞憂だった。
『……あーもう、まいったな……。今すぐ抱きしめに行きたい』
……ちゃんと、届いてしまっていたようだ。
「……っ、和泉さん、ウザいですっ」
『ははっ!』
"僕はこれからも灯ちゃんにどストレートに気持ちを伝えるけど。鬱陶しくなったら今みたいにウザいって怒ってくれていいよ"
私の過去を打ち明けた日に和泉さんが言ってくれたセリフ。
精いっぱいの照れ隠しに使わせてもらったけれど、和泉さんにはバレバレだったのだろう。楽しそうな笑い声が私の鼓膜を震わせた。
『灯ちゃんひょっとして今外?』
「…はい、珠理ちゃんと買い物した帰りで、最寄駅から家までの道を歩いてます」
『そっか。じゃあ家に着くまでの間、このまま話してようか』
「…ふふ」
和泉さんのその提案に、思わず笑みがこぼれた。
『ん?』
「和泉さんって割と心配性というか、過保護なところ、ありますよね」
『…灯ちゃんだからだよ。僕が心配するのも、どストレートに気持ちを伝えるのも、全部灯ちゃんだから』
「……うっ、ウザいです……っ」
『うん。でも僕は大好き』
さっきから赤く染まりっぱなしの顔で繰り出した2度目の"ウザい"は、柔らかさと甘さと、そしてほんの少しの妖艶さを滲ませた声に、呆気なく返り討ちに遭ってしまったのだった。