紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「ねぇ深町さん。お昼まだだったら、たまには息抜きに、一緒にどう?」
「息抜き……」
「……なんて、実はずっと気になってる店があるんだけど、それが男1人だと非常に入りづらい店で。だから息抜きっていうのは口実で、付き合ってもらえたら嬉しいなー、と」
呟いた私に、首の後ろを掻きながらそう言って悪戯っぽく笑う加藤先輩。
時刻はちょうどお昼を回った頃。
さっき、珠理ちゃんと同期の女の子2人が珠理ちゃんをランチに誘いに来て。
「灯さんも良かったら一緒にどうですか?」と言ってもらったけれど、「ありがとう、でもこれあと少しキリの良いところまでやっちゃいたいし、せっかくだから同期水入らずで行っておいで!」と送り出したところだった。
キリの良いところまで仕上げたかったのはもちろんなんだけど、同期の中に先輩の私が混ざってしまうと少なからず気を遣わせちゃうだろうなと思って遠慮した、というのが本当のところ。
なのにいつの間にかタイピングする私の手は止まってしまっていて、今に至る。
だから先輩に声を掛けてもらわなかったら、下手したら私はきっとお昼休みが終わるまでこのままここでボーッとしてしまっていたかもしれない。
「加藤先輩、お誘いありがとうございます。このままだとお昼を食べそびれる勢いだったので、そういうことでしたらプリンのお礼に喜んでお供します!」
いけないいけない、しっかり食べて午後からの英気を養わなければ!そう思いながら気合を入れてそう答えれば、
「お礼にお供……。うん、何かオレ、きび団子あげた桃太郎みたいだな。でもありがとう。じゃあこれは冷蔵庫に入れておくから、あとでおやつにでも食べて?」
メガネの奥の瞳を細めて可笑しそうに笑った加藤先輩が、プリンを給湯室にある冷蔵庫に閉まってくれて。
それから私たちは先輩の気になっているというそのお店へと向かったのだった。