紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】


「……なるほど。やっぱり深町さんにはすでにそういう人がいたんだなぁ。深町さんにそんな風に想われて、そんな顔をさせてしまうような人が。…………さて、これはどうしようか」

「え⁉︎」


もはや羞恥の波にさらわれてしまっている私には、先輩が顎に手を当てて最後にこぼした小さなセリフまでは当然拾い切れなかった。


「……いや、何でもない。じゃあオレは、とりあえず深町さんの相談役ってポジションを確保しておこうかな」

「相談役……⁉︎」

「うん。乗るよ?いつでも。恋愛相談」

「えっ!」

 「……って名目で、実はまたパンケーキ付き合ってもらおうっていう魂胆だったり」

「え、えぇ……⁉︎」

「ははっ。ってことで、またお供してね?深町さん」


そう言ってまるで悪戯っ子のようにくつくつと肩を揺らして笑う先輩の表情に、ほんの少しだけ寂しそうな色が浮かんで見えたのは気のせいだろうか。

でもそう感じたのも束の間、さすが仕事の出来る営業マンの加藤先輩は、そのあとするりと上手く話題を変えてくれて。

再び何事もなかったように他愛のない話をしながら食事を済ませれば、遠慮する私をサラリと躱して今日のランチをご馳走してくれたのだった。


おかしい……。ミルクプリンのお礼に今日はお供したはずだったんだけどなぁ……。

申し訳ないと思いつつそのまま客先に出向くという先輩に、「本当にご馳走様でした!」と深々とお礼をしてお店の前で別れる。



……ああ、しかし先輩にあんな風に語っちゃうなんて、我ながら思い出しただけでも本当に恥ずかしい……。



1人になった途端にまたフツフツと湧いて来た羞恥心。

会社までの道を、そんな忙しない心を抱えて歩きながら空を仰げば、かすみ雲が淡い青空一面を薄いベールで覆っていた。
 


『かすみ雲が出たら雨に気をつけるんだよ』



その雲を見て、ふと子供の頃おばあちゃんに言われたそれを思い出す。

今日の天気予報は何と言っていたっけ。そろそろ関東も梅雨入りだったかな?

折り畳み傘はバッグに常備しているから、降っても大丈夫ではあるけれど。

そう思いながらエントランスまで戻ってくれば、受付の近くでバッタリと佐原くんに出くわした。
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