紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「深町さん。お疲れ様です」
「佐原くん、お疲れ様。これから外回り?」
「はい。………つーかあれですね、深町さん、何かここでもちょいちょい視線を感じますね」
「あぁ……。でも珍獣を見るような視線には、もう慣れたかな」
周りをチラッと見ながら苦笑している佐原くんに釣られて私も苦笑い。
そうなのだ。
日曜日にマスターしたメイクと麻美さんから教えてもらった簡単に出来るヘアアレンジを施して、買ったばかりのオフィスカジュアルに身を包み出社した月曜日。
営業部のフロアに辿り着くまでにチラチラと視線を感じて、『どこかおかしかった⁉︎』とあまりの居た堪れなさに珠理ちゃんの元へ急げば、今度は営業部で珠理ちゃんへ辿り着く前に注目を浴び。
普段あまり話し掛けられないような人から声を掛けられたりもして、対応に困っていれば見かねた珠理ちゃんが助け舟を出しに来てくれた。
そしてようやく自席に着席すれば、
『灯さん、あれはただ、蕾が花開いて甘い香りに誘われたミツバチたちが寄って来ちゃってるってだけのことですから、全っっ然気にしなくて大丈夫です!もうっ、めちゃくちゃ可愛いです!』
隣の珠理ちゃんがそう言ってぎゅっとしてくれたから、いまいちその意味は分からなかったけれどおかしくはなかったんだなって、そこでようやくホッと出来たのだった。
それから4日が経ち、私の些細な変化もようやく日常として受け入れられつつあったけれど、佐原くんの言う通り未だに視線を感じることもある。
以前の私を知っている人からはまだ物珍しがられているのだろう、まさに"珍獣"として見られている感が半端ない。
「(いや、珍獣扱いされてるんじゃなくて、どう考えても話し掛けるタイミングを窺われてるってことに、この人全く気づいてないな……)」
「ん?何?」
「……いえ、何でも。じゃ、深町さん、オレそろそろ行きます」
何か言いたげな視線を投げて寄越した佐原くんがふと腕時計に目をやり、そう言って歩き出す。
「あ、うん、頑張って」
「うっす」
その背中に声を掛け、私も戻ろうと足を踏み出そうとした時、受付の辺りから一際強い視線を感じ、ふとそちらを見やる。