紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「……深……町?」
すると、ちょうど受付に来ていたスーツ姿の男性2人のうちの1人が私の名を呟き、こちらを凝視しているところだった。
……どこかで、お会いしたことのある方だっただろうか。
私の交友関係なんて、社内外問わず高が知れている。
なのにどう思い出そうとしてみても、その顔に見覚えは、ない。
同期3人でのランチを終えて持ち場に戻ったのだろう、受付嬢の1人で珠理ちゃんと同期でもある森本さんも、何事かとこちらの様子を伺っていた。
もはや戻るに戻れなくなってしまったそんな空気の中、その彼がツカツカと勢いよくこちらへ向かって来る。
佐原くんが呼んだ私の名前が聞こえたくらいだ。
それ程私たちの距離は離れていなかったため、あっという間に彼は私の目の前まで到達してしまった。
な、何……⁉︎っていうか本当に、誰……⁉︎
その身長差を見上げながら、表面上では平静を装いつつも、私は内心焦っていた。
ところが。
「…京野?」
もう1人の男性が彼の背中に呼び掛けたその名前を聞いた瞬間、私の肩が大げさなくらいピクリと跳ねた。
久しく耳にすることのなかった、その響き。
そしてその響きから思い浮かんだ、顔。
「ーー深町って、ひょっとして東中の2年3組だった、深町 灯ーー?」
ーーああーー。
降って来たその声に、思い浮かんだ顔と目の前の彼の顔が、重なった。
もう、最後に見かけた時から軽く10年は経つというのに。
面影は、ちゃんと残っていた。
和泉さんに話せたことで昇華出来たような気がしていた私の、苦い、思い出。
ーーその苦い思い出が今、目の前に。
「………樹、くん………?」
ーーーーどうやら雨をもたらすかすみ雲が、雨の前に、私に予期せぬ再会をもたらして来たようでーーーー。