紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
誤解が解けて、誤解が生まれました
今目の前で起きていることが、にわかには信じ難い。
なぜ彼が、ここにいるんだろう。
ーー京野 樹くん。
彼は私の初恋の人であり、あれからずっと、私の苦い思い出の中にだけ存在していた人ーー。
「もしかしてと思ったけど、やっぱりあの深町だった!久しぶりだなー!」
そんな彼が突然目の前に現れ、くりくりの二重をくしゃっと細め懐かしそうに破顔している。
あの頃よりも確実に開いた身長差、面影はあっても、すっかりあどけなさが抜けて男らしくなった顔つき。
身に纏うものも学ランからスーツに変わって、どうしたって過ぎ去った年月の長さは感じるのに、10年経った今も、
『深町、何読んでんの?』
私に屈託なく笑いかけて来てくれていた、明るくて人懐っこい、あの頃の樹くんのままだった。
「はは!幽霊でも見たみたいな顔してる」
……そりゃそうだ。まさか10年ぶりに、しかもこんなところで再会するとは、思ってもみなかったのだから。
「深町は、ここに勤めてるの?」
名前を呼んだきり一言も発せずにいる私の顔を覗き込む樹くんに、こくりと頷くことしか出来ない。
「オレこれから先輩とここで打ち合わせで、もう行かなくちゃなんだけど。深町、今日仕事終わるの何時?」
「………」
「何時?」
「ろっ、6時、くらい……?」
「ふはっ、何で疑問系!じゃあそのあとの予定は?」
張り付いた喉から無理やり声を絞り出して答えれば、また笑われた。
「特には……」
「よし。じゃ、そのまま空けといて!その時間に会社出たとこで待ってるから」
「は⁉︎え⁉︎」
「オレと、飲みに行こう」
「飲み……⁉︎」
「京野、もう行くよ?」
「あ、はい!……深町、約束ね?」
「ちょっ!樹くんっ……!」
さっきとは打って変わって真剣な表情を浮かべ私の耳元でそう念押した樹くんは、お連れの男性に呼ばれ、結局最後までこの状況に全く順応出来ないまま呆然とする私を残して、社内へと消えていったのだった。