紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

それはきっと、和泉さんのおかげ。


あの日の出来事を打ち明けた時、和泉さんがあの時の私の気持ちに寄り添って、その気持ちごと優しく包み込んでくれたから。  

あの頃の傷に、痛かったねと、そっと絆創膏を貼ってくれたから。
  
あれ以来恋をすることをやめ人を好きになる気持ちすらも忘れてしまった私に、その気持ちを、思い出させてくれたからーー。



「ーー深町さん、大丈夫ですか?」


思考の波に飲まれてしばらく動けずにいた私の
名前を、受付から森本さんが気遣わしげに呼んだところでようやく我に返った。


「ーーあ、ごめんね、大丈夫!まさかこんなところで会うとは思わなかった人だったから、ちょっとびっくりしちゃって」
 

慌ててそう取り繕えば、黒目がちな、普段はキリッとしている猫目の目元を解してホッとした表情を見せてくれる。


凛とした美人、という印象の森本さんは、社内の人間から"クールビューティー"という異名を付けられている。

その雰囲気から一見とっつきにくそうに思えるけれど、それはただ少し人見知りなだけで、実際はとっても可愛くて良い子なんだと、前に森本さんを紹介してくれた時珠理ちゃんが力説していたのを思い出す。


「今の方たち、秋に期間限定発売予定の栗を使った新商品のパッケージデザインを担当されている、デザイン制作会社の方たちなんですよ。お知り合いだったんですね」


デザイン制作会社……。


「…そうだったんだ。私に話し掛けて来た方がね、10年ぶりの、中学の同級生だったの」

「それはすごい偶然ですね」


目を丸くする森本さんに「ほんとにね」と苦笑を返したところでお昼休みの残り時間があとわずかだったことを思い出し、「ごめん、もう行かないと!じゃあまたね、森本さん!」と私は急いで受付をあとにしたのだった。
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