紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
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「……お待たせ致しました。ジンバックと、アプリコットフィズです」
カウンターの中のバーテンダーが樹くんの前にジンバックを、私の前にアプリコットフィズをコトリと置く。続いてお洒落なお皿に盛り付けられたミックスナッツを。
「じゃあ10年ぶりの再会を祝して、乾杯!」
「……乾杯」
カウンターの中から何やら視線を感じるが、それには気づかないふりをして乾杯に応じる。
カチン、とグラス同士のぶつかる音が響き、中の氷もそれに合わせて涼しげな音色を奏でた。
『……断られると思ってた』
定時に仕事を終えて、今日は同期会があるという珠理ちゃんと佐原くんを先に営業部のフロアで見送ってから下へ降りて行けば、約束通り、樹くんは会社を出たところのガードレールにもたれてすでに待ってくれていて。
『お待たせしました。わざわざここまで来てもらってごめんね。どうしようか?』
開口一番そう言った私に、樹くんがくりくりの瞳を少しだけ驚いたように見開いて、ポツリとこぼした。
『誘ったの、樹くんなのに。それに、さっきは断る隙も与えてもらえなかった』
私が冗談めかしてそう言えば、樹くんが首の後ろを掻きながら困ったように笑う。
『いや、まぁ事前に断られたくなくてあえて連絡先も渡さなかったんだけど……。でもさすがに強引だった自覚はあるから、ここで直接断られるパターンもあるかな、と』
『確かに突然で驚きはしたけど、予定もなかったし10年ぶりだし、せっかく誘ってもらったのに断らないよ』
…いや、本当は和泉さんを優先して一瞬断ろうかと思ったけれど、それは内緒だ。
『うん、良かった。実は行ってみたい店があるんだけど、深町、付き合ってくれない?何を飲んで食べてもすごく美味いって、先輩オススメの店なんだけど』
『うん、いいね。じゃあ道案内、よろしくお願いします』
私がペコリと頭を下げれば、樹くんはようやく安堵したように顔を綻ばせた。
ーーでも、誰が思っただろう。
樹くんが行ってみたいと言った先輩オススメのお店が、まさかここだったなんてーー。