紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】


「私と恭加は、高校時代からの友人でもあるんです」

「……あっ、じゃあ、ひょっとして比呂さんのお兄さんも……?」


先ほどの、副社長と秘書にしては親しげな呼び方とやり取り。

あれはそう言うことだったのかと納得して、もう1人、和泉さんが旧友だと紹介してくれたシェフの彼を思い出した。


「ええ、そうです。私たちはもうかれこれ20数年の付き合いですが、私も皇も、あんな恭加を見るのは初めてだったんですよ」

「……?」

「彼は、今まで誰か1人の女性に対して独占欲や執着といった感情を見せたことがありませんでした」


私の疑問符を察してくれたのか、瀬戸さんはすぐに答えをくれた。


『オレの知る限り、恭加さんは相手の方から好かれて付き合うパターンばっかりだったけど。で、"私のこと、好きじゃないでしょう?"って理由で毎回すぐフラれるのがお決まり』


彩也子さんと初めて出会った日、比呂さんがそう言っていたのを思い出す。


「あなたが初めてだったんです。恭加が自分から欲して手を伸ばし、誰にも渡したくないと独占欲を剥き出しにした女性は。だからお礼を言いたかった。恭加に本気で人を好きになることを教えてくれて、しかもその気持ちを受け入れて下さって、本当にありがとうございます、深町さん」


その言葉が、心にポトリと落ちてじんわり沁みた。

そこからコポコポといろんな感情が湧き上がり、不覚にも目頭まで熱を持って来るから困る。

だけど、


「出来れば、このまま一生放さないでいてくれると有難いのですが」


瀬戸さんが重ねて至極真面目なトーンでそう告げてくるから、ついふ、と笑みがこぼれて。


「……瀬戸さん……。それは、こっちのセリフです……」


何とかそれだけ搾り出せば、彼は嬉しそうに喉の奥でくく、と笑った。


「それならひと安心です。恭加はもう、あなたを手放す気はないでしょうから。ーーさて、おしゃべりはこのくらいにしてそろそろ深町さんをお連れしないと、恭加に怒られてしまいますね」


そして最後に少しだけ戯けた表情を見せた瀬戸さんは、私が落ち着くのを待ってくれてから、和泉さんの部屋へと連れて行ってくれたのだった。
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