紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

辿り着いた和泉さんの部屋は、23階にあった。

外観からして何だか凄そうなマンションだと思ってはいたけれど、内装もまた想像に違わず凄かった。

エレベーターも共用部分である廊下も、さらには玄関先で瀬戸さんから和泉さんに引き渡され早速案内された洗面所とバスルームも、まるで高級ホテルのそれみたいだった。


「タオルはそこに出してあるもの好きに使ってね。着替えや必要そうなものはさっきコンシェルジュに頼んでおいたから、灯ちゃんが入ってる間に届けてくれると思う。届いたら、一声掛けて洗面所に置いておくから」


和泉さんは、雨を吸い込んでいたスーツからすでに黒のTシャツにスウェットパンツというラフな服装に着替えていて。

いつもは後ろに流れている前髪も、雨に打たれた髪をタオルドライしたせいか今は無造作に額に掛かっており、それがまた妙に色っぽくて、見慣れなくて、説明を聞きながら私は無駄にドギマギしてしまっていた。

でも、

(……コ、コンシェルジュ……⁉︎)

あまりにも聞き慣れない単語がその口から飛び出すから、一瞬ポカン、となる。

地下駐車場から直通のエレベーターに乗って来たから分からなかったけれど、この立派なマンションには、どうやらコンシェルジュが常駐しているらしい。

普段はあまり意識することがないけれど、今更ながらああ、この人は有名化粧品メーカーの副社長だったと思い出す。

私はごくりと生唾を飲み込んで、何とか「ありがとうございます……」とだけ返し、「ゆっくり浸かっておいで」と柔く微笑み去っていく和泉さんの背中を見送ったのだった。







コンシェルジュの方が用意してくれたという紙袋の中には、ネイビーのゆったりめのTシャツワンピースに黒のリブレギンスといった着替えの他、トラベル用のスキンケア用品やヘアオイル、歯ブラシなんてものまで入っていて、まさに至れり尽くせりだった。

それらを有り難く使わせてもらい、用意してくれていたドライヤーでザッとだけ髪を乾かさせてもらったあと急いでリビングへ向かえば、和泉さんはソファーに座って文庫本を読んでいた。

グレー系で纏められたシンプルでシックなリビングは、ざっと見ても20畳近くありそうだ。
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