紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

「お風呂、お先にありがとうございました」

「ちゃんと温まって来た?」


私に気づいた和泉さんが文庫本を閉じてローテーブルに置き、こちらへやって来る。


「はい、おかげさまで!和泉さんも、風邪引いたら大変なので、早く入って来て下さい」


本当は和泉さんにも早く温まって欲しいのと落ち着かないのとで、コンシェルジュの方から届いたものを置いてもらってすぐに上がったのだけど……。


「あっ、用意して頂いたもの、おいくらでしたか?」


そこでハタ、とこの一式を頼んでくれた彼が恐らくすでに支払いを済ませてくれているだろうことに気づく。


「ん?これくらい、気にしなくて良いよ?」


うん、そう言われるだろうとは思ったけれど……。


「そんな訳には、」

「そもそも灯ちゃんをここへ連れて来たのは僕の我儘だし、第一、灯ちゃんは今日から僕の彼女だ。違う?」

「ち、違わない、です……」


彼女って……。

改めて口に出されるとテレる……。

なんてパワーワードなんだ……!


「ん。だからこのくらいは彼氏に甘えなさい。ね?」


だけどひたすらテレている私になどお構いなしで茶目っ気たっぷりにそう言われてしまえば、それ以上はもう何も言えなくなってしまう。


「……う……。じゃあお言葉に甘えて……。ありがとうございます……」

「どういたしまして」


そこで和泉さんは素直に頷いた私の頭を嬉しそうにポンポンと撫でた、のだけど。


「……灯ちゃん、ちょっとソファーに座って待ってて?」

「え?」


今度は(おもむろ)に無造作に下ろしたままの私の髪をサラリとひと筋掬うと、私をソファーに座らせて一旦リビングを出て行ってしまった。

どうしたんだろうと思って大人しく待っていれば、しばらくして戻って来た和泉さんの手には、さっき少しだけ使わせてもらったドライヤーが握られている。


「まだちゃんと乾いてないから。乾かしてあげる」


そう言うと、和泉さんはスッと私の背後に回った。
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