紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
ーー和泉さんは優しい。
初めて出会った日からずっと、そのさり気ない優しさで私を包んでくれる。
こんな素敵な人が私のことを好きになってくれて、今こんな風に過ごしていることが夢みたいだ。
だけどこの状況に、ドキドキもするけれどすごく安心もして。
思えば和泉さんの側は、最初から不思議と居心地が良かったなぁ、と。
出会った頃を思い出しながら、丁寧に乾かしてくれるその心地良い大きな手に、心まで満たされるのを感じながら私はすっかり身を委ねていた。
だから、それが終わってしまったあと少しだけ名残惜しく思っていれば、
「……ところで灯ちゃん。さっきから何でタオルで顔隠してるの」
私の目の前に移動して来た和泉さんが、言いながら少し屈んで目線を合わせて来くるから咄嗟に顔を背けた。
し、しまった……!
今の今まで触れられなかったから、すっかり油断していた……!
「そっ、それはもちろんすっぴんだからです……!なのでそれ以上は……!」
そうなのだ、私は今完全なるすっぴん状態。
一応メイク直し用の道具は持っていたけれど、下地やらなんやら一から顔を作るものは一切持っていなかったので、軽くスキンケアだけしてそのまま出ざるを得なかった。
でもさすがにそれを晒すのは恥ずかし過ぎるので、目元から下をタオルでずっと隠していたという訳なのだ。
恥ずかしいから早く離れて……!
顔を背けたまま和泉さんが離れてくれるのをじっと待っていれば、目の前の影が突然ゆらりと揺れる。
そして気がついた時には、離れるどころか私はすっぽりと和泉さんの腕に包まれていた。
「……⁉︎」
こ、こ、これは一体……⁉︎
顔を見られなくて済む体勢なのは良いけれど、これはこれでさっきまでの穏やかだった鼓動が急に忙しなく暴れ出し始めるから困る。
「……あー、もう……。お風呂上がりのそのリラックスした格好も、恥ずかしそうに顔隠してるところも、僕が早く温まれるようにって髪を乾かすのもそこそこに出て来てくれたところも、その全部が可愛過ぎて堪らない」
戸惑う私の一方で、ダイレクトに鼓膜を震わせたその声はなぜか少し苦しそうで。
「……い、和泉さん……?」
モゾモゾと身動ぎして見上げてみれば、さっきフラワーテラスで見たのと同じ、熱を孕んだ瞳にぶつかってしまいハッと息を呑んだ。