紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「ーー和泉さん。お待ちしてました」
「今日は無理を言って悪かったね、竜くん」
「いえ、和泉さんにはいつもお世話になってますから、これくらいお安いご用ですよ」
「はは、お世話になってるのはこっちの方だよ。これ、良かったらあとで食べてね」
「わざわざすみません。じゃあ有り難く……、って、深町さん?」
なんて和気藹々と親しげなトークを繰り広げる和泉さんの後ろで驚きのあまり固まってしまっている私に気がついた坂崎さんが、和泉さんの肩越しに私を覗き込んだ。
ーーそう。何と和泉さんが連れて来てくれたのは、この前珠理ちゃんとも来たばかりのヘアサロン『C’est la vie』で。
中で待ってくれていたのは、坂崎さんだった。
「……あっ、は、はい!先日はお世話になりました!」
「……この状況、何かすごい既視感あるけど……、2人とも知り合い?」
慌てて和泉さんの背中から飛び出してご挨拶すれば、びっくりした様子の和泉さんが私と坂崎さんを交互に見る。
昨日彩也子さんと私が遭遇した時と、同じ顔をしていた。
「麻美の妹の会社の先輩で、ちょうどこの前2人で来てくれたんです。な?」
「は、はいっ」
「ああ、中村さんの。……ひょっとして、珠理ちゃんが?」
そこで和泉さんはピンと来たらしい。
「そうです!珠理ちゃんがここを紹介してくれて……」
「そうか、僕が不在の間に灯ちゃんをますます可愛くしたのは竜くんだったのか」
「まぁ深町さんを担当したのは麻美の方ですけどね」
「……良かった。大切な女の子を他の男の手で綺麗にされるのは、ちょっと悔しいからね」
「んなっ、何を……っ⁉︎」
和泉さんの突然の爆弾発言に、私はぶっ!と吹き出しそうになった。
「ははっ!和泉さんにも、そういう感情あったんですね?」
「うん、灯ちゃんに出会って初めて知ったよ」
「まさか深町さんが和泉さんの想い人だったとは、驚いたな。でも今日は俺が手を掛けちゃいますけど、良いんですか?」
「それが今日の僕のリクエストだからね。やむを得ない」
「愛されてんなぁ、深町さん」
「え、えーと……!そういえば今日は麻美さんと悟さんは……⁉︎」
私をむず痒くする2人の息のあったテンポの良い会話にそれ以上は耐えきれなくて、咄嗟に話を逸らせばそんな私の気持ちはバレバレだったのだろう、坂崎さんに笑われてしまう。
「くくっ。2人とも今日は朝から1日外で仕事。俺もヘアメイクの仕事入ってたから、店閉めてたんだよ」
「そこを僕が無理を言って少しだけ開けてもらった」
「どうして、」
「今日は大事なデートだから、ね」
私の疑問に、分かるような分からないような答えを返して和泉さんはにこ、と微笑んだ。
「さ、じゃあ深町さんこっち座って。とびきり可愛くしてやるから」