紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「ーーあ、そういえばお2人はどういうお知り合いで……?」
下地で整えられ、クリームファンデーションをブラシでクルクルと伸ばされながら、そこでようやくその疑問に思い至る余裕が出来た。
「灯ちゃんは、モデルの戸田 恵麻ちゃんって知ってる?」
その疑問には、後ろで座って待っている和泉さんが答えてくれる。
その名前には聞き覚えがあるような……。
「……あ、確か珠理ちゃんがspRINGのイメージモデルで、透明感がすごくてめちゃくちゃ可愛いって雑誌を見せてくれたことが……」
いろんな分野に常にアンテナを張り巡らせている珠理ちゃんは、俗世に疎い私にいろんなことを教えてくれる。
恵麻ちゃんのことも、和泉さんの正体が分かってすぐの頃に珠理ちゃんから聞いたことがあった。
「そうそう。恵麻ちゃんは今季のうちのイメージモデルでね、その彼女のヘアメイクを担当しているのが竜くんなんだ。僕もCM撮影の時なんかには顔を出すようにしていて、そこで知り合ってからの付き合い」
「そうだったんですね……」
「年下の女に惚れ込んでるって共通点で意気投合してな」
和泉さんの言葉を受けて、坂崎さんが鏡越しにニヤリと笑った。
うっ……!
お2人で、そんな話をされたりもするんですね……。
まぁなんていうか、世間は狭いとはよく言ったものだ……。
そしてベースメイクが終わって、次はアイメイクにチークにリップと、坂崎さんはいろんなメイク道具を駆使して私の顔にどんどん色を足していく。
珠理ちゃんのおかげで自分でもある程度出来るようにはなったけれど、やっぱりプロの技は違うなぁ。
ちなみに今日使われているのは全てspRINGのアイテム。
spRINGのものはどれも質が良いと、坂崎さんも仕事でよく愛用しているらしい。
そして最後にヘアアイロンで緩く巻いた髪を、サイドと後ろにおくれ毛を少し残したシニョンヘアに纏めてくれた。
「ほい、出来上がり」
ここまででおよそ30分。
その声を合図にメガネを掛けて改めて鏡を見てみれば、ピンクブラウンのアイシャドウをベースに、上下瞼にトッピングされたラメが品良くキラキラと煌めき、ヘアセットも相まってか普段よりも少しだけ大人っぽい、よそいきの私がこちらを見つめ返していた。
「……うん。とても綺麗だ、灯ちゃん」
鏡越しに目が合うと、和泉さんは眩しそうに目を細め、
「ーーじゃあ、次の場所へ行こうか」
と私を誘った。