紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
【番外編②】名前を呼びたい
「……あ、あの、和泉さん……?」
「ん?」
「そろそろ離してもらわないと、朝ごはんの準備が……」
「んー、もうちょっと……」
「遅刻、しちゃいますよ……?」
「大丈夫、あと五分だけ……」
「……五分だけ、ですよ?」
「うん、あと五分だけこのまま……、ね?」
ーー結婚を前提に正式にお付き合いするようになって分かったこと。
和泉さんは、私を腕の中に閉じ込めたままのこの朝の僅かな微睡の時間が、どうやらとてもお好きらしい、ということ。
まだ弱い朝の日差しがブラインドカーテンの隙間から差し込むベッドの中。
後ろからお腹に回された腕の力はさらにギュッと強くなり、和泉さんは声に嬉しさを滲ませながら私の旋毛にグリグリと鼻を擦り付けている。
私を求める時に全身から滲み出ている色香が朝にはマイルドになり、まるでじゃれ合いを求める大型犬みたいになるその様がとても可愛らしくて、私はついいつもそれに絆されてしまう。
〝あと五分〟
そのやり取りは、私が和泉さんの家へ一緒に住むようになってからの、毎朝の恒例行事みたいなものになっている。
「……和泉さん。多分、もう五分以上経ってます……」
「……んー?そう?僕の体感ではまだ全然経ってないんだけどなぁ」
……こんな風にあと五分、が結局五分に収まらないことも、ただ抱きしめられるだけじゃなく、たまに、いや、かなりの確率で甘いイタズラをされてしまうことも含めて。
くすくすと優しく空気を揺らすように笑いながら、和泉さんの私を抱き締める腕は一向に緩む気配がない。そればかりか今日もまた、甘いイタズラが始まりそうな気配がする……。
でも、私もこの朝の微睡の時間がとても好きだから、最近は〝あと五分〟を考慮してスマホのアラームをセットしているということは、和泉さんには内緒の話だ。