紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
それに私がスマホのRPGゲームにハマっていることを知った和泉さんは、"僕に構わずやってもらって構わないよ"と言ってくれて、お昼の限定クエストだけは定食が運ばれてくるまでの間やらせてもらっている。
その間、和泉さんは和泉さんで今みたいに文庫本を読んでいたりして。
会話がなくても気まずくない。そういう所もとても居心地が良かったりする。
「あれ、灯ちゃん。それひょっとしてうちの春の限定色リップじゃない?」
気がつけば、和泉さんは私が手に握りしめている物に目をとめていた。
「……え?ああ、これ、出がけに珠理ちゃんがくれて、握りしめたままでした。ここのメーカーが好きらしくて……って、和泉さん、うちのって……」
「うん、実は僕の勤めている会社なんだ」
「えっ!そうなんですか⁉︎」
そう言って微笑む彼を前に、私は心底驚いてしまった。
まさか珠理ちゃんがくれたリップを作っている会社に和泉さんがお勤めされていたとは。
「うちのメーカーが好きだなんて、光栄だな」
「何か、限定色を二色買いしたって言ってましたよ?そのうちの1つをくれました。たぶん私がこういうの疎いからだと思うんですが、珠理ちゃん、なぜか毎回私の顔にやたらとメイクしたがって。今日もいつものように躱してたんですけど佐原くんに"また深町さん困らせてんのか"って言われてしょんぼりしてたので、今日は妥協してリップだけ塗ってもらいました」
はは、と苦笑いすれば、
「……佐原くん、は初めて聞く名前だね」
和泉さんはなぜか少し困ったように笑った。