紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
「あ、そうかもしれないですね。佐原くんは珠理ちゃんの同期でイケメンの営業マンです」
珠理ちゃんの話はたまにしていたけれど、確かに佐原くんの名前を出したのは初めてかもしれない。
「……イケメンの営業マンか。それはなかなか手強そうだ」
「はい?」
「……いや、その色、灯ちゃんによく似合ってる」
和泉さんがぼそりと呟いたそれは私の耳にまでは届いて来ず、聞き返せばそんな答えと共に和泉さんの左手がすっとこちらへ伸びてきて。
ん?と思う間もなくその手が私の右頬に触れた。
「あっ、ありがとうございます……っ?っていうか、あの、手……」
その私に触れている左手に動揺して、最後は尻すぼみになってしまった。
なぜ和泉さんの手が私の頬に……⁉︎
今全神経が右の頬に集中している。
予想以上に大きくてゴツゴツした手、触れた部分から伝わる温もり。
私を見つめる和泉さんの瞳に浮かぶその色も、私が初めて見るものだった。
……何だ、これは。自分の心臓の音がやけにうるさい。
「……ああ、ごめんね。……灯ちゃん、今日ランチが終わったら、ちょっと散歩して帰らない?」
私の頬から手を離してそう提案した和泉さんはもういつもの和泉さんだったけど。
その後もいつも通り一緒にランチをしながら、私の動悸はしばらく収まらず。
そんな私たちをおばちゃんがニマニマしながら見ていたことにも気付かなかったのだった。