紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
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ランチの後散歩にと和泉さんに連れて来られたのは、食堂に向かう時私がいつも使う通りから一本裏に入った道。
そこは桜並木らしく、木に茂る桜はもうほぼ葉桜になっていたけれど足元に散り残った花びらが時々風に舞い上がり、それはそれで風情があった。
広がる空の淡いブルーと葉桜のグリーン、時々舞い上がる桜のピンク。穏やかな色たちの曖昧なコントラストが綺麗。
「一本裏に入ったらこんな景色が広がっていたなんて、知らなかったです」
「なかなかいいでしょ?」
「素敵ですね。葉桜でもこんなに風情があるのに、満開の時期はさぞかし綺麗だったんでしょうね。ほぼ毎日通ってたのに、知らなかったなんてもったいないことしました」
「……僕ね、好きなんだ」
ほぉ、とその景色に和みながらそう言った私に返ってきた和泉さんの穏やかな声色が、透き通るような青空へと吸い込まれて行く。
「はい、私も気に入りました」
すると並んで歩いていた和泉さんがぴたりと歩みを止めて、おかしそうに肩を揺らした。
「ふ、これは全然伝わってないな。桜並木もそうなんだけどね、今のは灯ちゃんのことが好きって意味だったんだけどなぁ」
「え?」
立ち止まった和泉さんを振り返った時、サァー、と春の風が吹いた。
風に混ざって聞こえたそれは、私の空耳だろうか。
どこかで咲き残っていた桜の花びらがひとひら空から舞い降りてきて、それは私の頭にフワリと乗った。