紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
だってハイスペックな和泉さんと並ぶなら、きっとそれなりの格好をして行かなければならない。
まぁ元がこれだから着飾った所で高が知れているけれど。
場合によっては今からデート服を調達しに行かねば……。
でもTPOってあるから買うにしても行き先とか、そういうのを聞いてからの方が無駄な体力と気力を消費しなくて済みそうだ。
だからこそ思い切ってそう聞いたのに、和泉さんからの返答はない。
……あれ、これはひょっとしてドン引きしている?
声を発してくれないとこちらからは和泉さんの様子を窺い知ることが出来ない。
この沈黙に、私の不安と羞恥が上乗せされてしまえばもう居た堪れない。
「いやっ、あのっ、すいません、変なこと聞いて!私、デートなんてしたことなくて……っ」
「……灯ちゃん、それはズルいよ……」
「……え?」
「可愛過ぎて、一瞬フリーズした……」
「は………っ⁉︎」
堪えきれずに私からその沈黙を破った時、被せるようにぼそりと呟かれたそのセリフはボンっ!と私を爆発させた。
その爆発は、例えるならちょうどアパートの前を通りかかったらしい子供たちの、窓を閉めていても響く大きな笑い声を掻き消してしまえるくらいの威力。
電話を耳に当てたまま、真っ赤な顔でまるで金魚のように口をぱくぱくするしか出来なくなった私に、
「行き先は秘密だけど、水曜日は灯ちゃんがリラックスできる、普段のカジュアルな服装で大丈夫だよーーー」
和泉さんは、陽だまりみたいな温かさの滲む声でそう言ったのだった。