紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】
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「おや灯ちゃん、いらっしゃい!」
「おばちゃんこんにちはー」
"ふじさわ食堂"と、赤地に白抜きの暖簾の下がった引き戸を開けると、割烹着のよく似合う60代のふくよかなおばちゃんが元気よく声を掛けてくれる。
まだお昼になったばかりだというのに、今日も相変わらずサラリーマンや作業着姿のおじちゃん、兄(アン)ちゃんたちで、店内は既に8割型席が埋まっていた。
「今日は何にする?」
通い過ぎてすっかり常連の私は1人で来る時大抵カウンターの席に座るのだけど、今日は生憎カウンター席が埋まっていたため空いていた2人掛けの席についた。
それと同時にお冷とお絞りを持ってきてくれたおばちゃんが聞く。
「唐揚げ定食で!」
「はいよ!唐揚げちょっとおまけしとくからね。から定一丁ー!」
厨房に注文を投げたおばちゃんの声に、おじちゃんが頷いた。
おばちゃんはいつもそう言って何かしらおまけしてくれる。
早い、美味い、安いだけじゃない、そういうおばちゃんの優しさが私みたいなリピーターを生み続けてきっとこの大繁盛振りなのだ。ちゃんと採算は取れているのか、ちょっと心配な所だけれど。
「いつもありがと、おばちゃん」
「灯ちゃんはひょろっこいくせに食べっぷりがいいから、ついたくさん食べさせたくなっちまうんだよねぇ」
私がお礼を言うと、おばちゃんがシワシワの顔をくしゃりとさせて悪戯っぽく笑う。