ここに座ってもいい?③

僕はすぐに気づいた。

制服と同じようにフォーマルな姿だったからだ。

「ここに座ってもいい?」

彼女はそう言って僕の向かいに座った。

彼女もスーツ姿の僕にすぐ気づいたようだ。

彼女はコーヒーを注文し僕もコーヒーをおかわりした。

「ここの喫茶店にはよく来るの?」

「休みの日はよく来ますよ。今日は早く帰れたので寄りました」

どうやら彼女はこの辺りで誰かと待ち合わせをするために、たまたまこのお店に来たようだ。

「今日は私もいつもより早く帰ることができたの。約束があることを話すと、看護師さんが後は任せてって言ってくれて」

「それは良かった」

僕はコーヒーを一口飲み言った。

少しの沈黙の後、彼女は「今日は旦那と夕食を食べるの」と話した。

「たまには外で食べるのもいいんじゃないかって」

「僕もそう思います」

「あなたは彼女さんや奥さんはいるの?」

「いいえ、1人です」

「失礼なことを聞いたかしら。自炊はするの?」

「自炊もなれてますので」

「それがいいわ。きっとあなたならいい人が見つかるわ」

「そう言ってもらえるだけでも嬉しいです」

「お世辞じゃないわよ?あなたって普段あまり喋らないんだろうけど、真面目に仕事もするし誠実よ」

僕は何も答えなかった。

店内ではいつものようにジャスが流れていた。

彼女は時計を見て「もうそろそろ行かなくちゃ。今日は私に払わせて」

僕はびっくりして「どうして?僕の分は自分で払いますよ」と言ったが彼女は伝票を持ってレジに向かった。

「話し相手をしてもらったお礼よ」

僕は礼を言いお店を出た。

「次はいつ来るのかしら?」

彼女は言った。

「呼ばれない限りは来ないと思います」

「残念ね。あなたの仕事姿を見れないなんて」と言い彼女は穏やかに微笑んだ。

素敵な笑顔だった。

僕は彼女にお礼を言い別れた。

家に帰り着くとシャワーを浴び、ソファーに座って音楽を流した。

きっと今頃彼女は旦那と食事をしているのだろうと思った。

夕陽が部屋の中を明るく照らし、僕はぼんやりと壁を見つめていた。

それからおよそ2週間後に葉月から連絡がきた。
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