もしも半分生きた人生をやり直すことができたら。

「結月！結月！！起きなさいってば、あんた！」
「何時〜・・・てか、寒っ」
「もう七時半よ！！遅刻するわよ！」
「え・・・？七時半？」
聞き覚えのある女性の声はかなり怒っていた。
仕事は八時半からだから、七時半おきはもう取り返しがつかないよ？と思いながら眠たい目擦りながら起き上がる。
「何言ってんの、五十分には集合でしょ？」
「集合・・・？」
カーテンから太陽の日差しが眩しく入る。
それは明らかな朝だった。
気温は冷たくて、今が夏ではないことだけは分かった。
部屋に飾られているカレンダーに大きく11月と書かれている。
「お母さん」
「何」
「わたし、今何歳？」
「九歳」
「何年生？」
「何言ってんの、小三でしょ」
「・・・クイズ出してみただけ」
「・・はっ・・・馬鹿な子」
ルナによって戻された過去は小学校三年生の九歳だった。
明らかに二十五歳まで生きてきた記憶は鮮明にあり、これが現実だということを思い知らされる。
まだ信じられない。

この年齢のときに何かあったっけ。
一番後悔した出来事が起きた過去から始まるってルナは言っていたけど、幼い頃の記憶はもうほとんど忘れていて、全く見当もつかなかった。

一階に降りて、リビングに向かう。
恐る恐るリビングの前の扉を開けると、目の前に広がる食卓には懐かしいご飯が並ぶ。
お味噌汁と、父が好きなもち麦ごはんが茶碗いっぱいに盛られている。
大きな目玉焼きが二つの皿はハムが一枚で、目玉焼きが1つの皿にはハムが二枚入っていると決まっている。
いつも母が用意してくれていた朝ごはんだった。
あったかいのか、お味噌汁から湯気が出ている。
なぜか泣きそうになった。

母の作るご飯を食べるのはいつぶりだろうか。

「おはよう結月」と父が言い、その隣の席がわたしの座る席。
「早く食べなさい」と急かす母に「頂きます」と手を合わせた。

この頃はまだ家族四人で食卓を囲んでいたんだ。

「おはよう。お父さん、お母さん」
「おはよ、紫月」
「しーちゃん、おはよう」

パタンと閉まった目の前の扉から、わたしより体の小さな女の子がこちらに向かって挨拶する。

そう、紫月。
あだ名はしーちゃん。
わたしの、たった一人の妹である。

「ゆっちゃん、おはよう」
「おはよ」

大好きなのに、脆く、簡単に壊れてしまいそうで、妹に接することがいつの間にか怖くなっていた。

きつい言葉を浴びせたら、泣いて立ち直れなくなるんじゃないか。
とんと押しただけでも転んで立ち上がれなくなるんじゃないか。
そう思うようになってから、紫月ときょうだい喧嘩に発展しそうになっても、取っ組み合いの喧嘩するのをやめた。