もしも半分生きた人生をやり直すことができたら。

「・・・おっ」
胸の中にため込んでいる言葉を口にすると泣きそうになる。
いつも喉の奥につっかえて、喋れなくなる。
小さい頃からいつもそう。
お母さんはこれを待てないひとだった。
「何よ！！早くしなさい！」
本当にこの人を前にすると、息も出来なくなる。
怖くてたまらない。
自分の気持ちを聞いてほしかったのに。
この人だけには知ってほしかったのに。
SOSが出せなかった。
「・・お、お母さん」
「なによ！！」
「なんで・・・いつも・・・」
「・・・」
「・・いっつも・・」
わたしに強く当たるの？
伝えたい言葉が吐き出せずに、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
言葉が涙に変わり、あふれ出るように。
声に出せず、言葉に表すことも出来ず、消えていくように涙として流れ落ちる。

わたしはこころに寄り添ってほしいだけなの。
いらない子でも、大事な子でもなくてもいいから。
わたしのこころだけは殺さないでほしい。
自分の存在価値が分からず、悩みながら生きるのは本当に辛かったんだよ。

「・・・紫月を何にもできない子に育てるのはやめてほしい」
「は・・・？何よそれ」
「紫月は・・・自分で靴を履ける子だよ。これからやりたいことだってたくさん自分で選べるのに、できないとか、危ないって決めつけないであげてほしい」
「あんたに何が分かるの、なんでそんな偉そうに・・・」
「偉そうじゃないよ。ちゃんと勉強したから分かる。わたしにこんなに知識があることを知らなかったのは、お母さんが紫月ばっかりで、わたしのこと知ろうとしてなかったから、気づけなかっただけだよ・・・」
「・・・・」
せめて、今を生きる紫月にだけは同じ未来を進んでほしくない。
25年間苦しんできたわたしには苦しみが大きすぎて、人生をやり直したとしても、母親の壁を越えられそうにない。
だからせめて、とらわれるように与えられた選択肢が狭い紫月の未来は明るくしてあげたい。守りたい。

お母さんには勝てない。
わたしの家族のルールはこの人だったから。
この人の喋る言葉、感じた気持ち、喜びや悲しみがすべて正しいんだ。