もしも半分生きた人生をやり直すことができたら。

その日の夜、紫月が寝たことを確認した母は父と合わせて、わたしに紫月の病気の話をしてくれた。
「し、紫月にも・・・自分の病気のことを話してほしい」
「・・・あんた、正気？あの子、まだ一年生なのよ？」
「怖すぎる病気じゃないよ。対応方法とか、周りが気を付けてたら・・・」
「病院の先生もそう言ってたわよ！！！」
「・・・」
「成長するにつれて、いつか良くなる・・・治る子もいるって・・・でも、いつまた発作が起きるか分からないじゃない？！どこで勉強したか知らないけど、勝手なこと言わないで」
唇を噛みしめる。
「・・・お母さん、お父さんが結月に話すから。もう寝室に行ってなさい」
「・・・お願いします」
母の隣に座っていた父が母を2階へ連れていく。
また涙が零れ落ちる。
どうして、こうもわたしは惨めなんだろう・・・。
「結月」
「・・・」
父と二人きりでリビングで会話を続ける。
父の話し方はいつも魔法みたいで。
ずるくて。
いつも惑わされて。
わたしは丸め込まれてしまう気がしていた。
「今日、学校の先生から会社に電話があったんだ」
「・・・」
「びっくりしたよ」
「・・・」
「すぐに病院に向かえなくて、ごめんな」
父は謝ることを知っているひとであった。
「・・うん」
「先生から聞いたよ。結月が一人で紫月を介抱してくれたんだってね」
「うん」
「ありがとう」
相手に感謝できるひとであり、
「・・・うん」
「怖ったし、びっくりしたね」
心に寄り添える人であった。
「・・・うん・・・ぐすっ・・・」
「結月、お母さんはね」
そして、誰よりもお母さんの気持ちを大切にしてしまうひとであった。
「うん、分かってる・・・・分かってるから・・・もう言わなくていいよ・・・・」
わたしは父の口から次に出てくる言葉を知っている。
“お母さんも、悪気があったわけじゃないんだよ”
”カッとなって言ってしまっただけだから”
”許してあげてほしい。ごめんね”

どうして、いつもお父さんが謝るの？
どうして、いつもわたしが許してあげる立場に立たなければいけないの？

わたしはいつも何も言い返せなくなる。
だから、この家族が苦手で、居心地が悪くて仕方なかった。