「会いたい」でいっぱいになったなら
「美琴ちゃん、お酒強くて驚いたよ」

紘一は隣を歩く美琴を見つめた。

美琴はかなりの量を飲んでいたのに、ヒールのある靴を履いてしっかりとした足取りで歩いている。

「はい。ワタクシも強いほうだと思います。磯ヶ谷さんもかなり飲んでいらっしゃったとオミウケシます」

飲酒後なのに言葉使いがとても丁寧で以前試合後にあった打ち上げの時よりずっと固いしゃべり方だった。

取引先だから粗相はできないということか?
それとも同じ駅で降りた俺を警戒しているのか?

別に恋愛感情を持ったわけでもないし、一夜限りの相手にしようとも思っていないのに・・・と、美琴との距離感を少し残念に思った。


「では、ワタクシはココイラで失礼ツカマツリます」

駅に着くなり美琴は深々とお辞儀をした。

「家まで送るよ。俺の家とも近いし、もう遅い時間だし・・・」

そう言った瞬間、美琴は履いていたハイヒールを脱いで、駅前の噴水に足をつけようとした。

「えーーーーー!!ちょっと待って!美琴ちゃん!!」

水に足をつける寸前のところで、紘一は美琴の腕を引っ張り、その胸に抱き寄せた。


「ダイジョウブです。ダイジョウブナンです」

俺の胸を押し、噴水に入ろうとする。

「いやいやいやいやいや。大丈夫じゃないから!」
「おキになさらず」

「いや、気にするから!とりあえず靴履いて」
「それは無理です」

「は?」
「もう出掛けません。ワタクシはもう眠いのデス」

「うん。帰ってから寝ようか」
「はい。おやすみナサイませ」
そういうと抱きしめていた俺に全体重をかけて眠り始めた。

「待って!寝ないで!美琴ちゃん、しっかりして!美琴ちゃん!」




「みことーーーー!」


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